2012年5月12日土曜日

脳死臓器移植Q&A


(1) 「脳死」について
  • 脳死とは何ですか?

頭部の激しい外傷、脳内出血などが原因で、脳細胞の壊死が進み、脳全体の機能が失われ、元には戻らなくなった状態のことです。

  • 脳死と植物状態の違いは?

植物状態の人が自力で呼吸ができている(自発呼吸がある)のに対し、脳死状態の人はそれができないことです。これは、脳と脊髄の間にあって呼吸を司る「脳幹」という部分の働きが、植物状態の人では生きており、脳死状態の人では失われているためです。
 しかし、脳死状態でも肺の機能はあるため、人工呼吸器を使えば肺に入った空気から酸素を血液中にとり込むことができます。

  • Q:脳死は人の死なのでは?

人の死とはいえません。あくまで、脳という一つの臓器の機能不全で、人そのものの死ではありません。
 脳死患者は人工呼吸器の助けで呼吸していますが、心臓は自力で鼓動しています。体温も正常で、見た目は眠っているような状態です。脳死状態でも、子供なら成長します。脳死状態で出産した女性の例もあります。髪も、ヒゲも爪も伸びます。汗もかき、排便もします。
 周囲の家族にとっては、家族の誰かが重篤な状態に陥って病院のベッドで休んでいるという状況です。脳死状態となってもその人は、家族にとっては今までと変わらない、愛する対象であり、深い絆で結ばれています。病気の時ならなおさらのことでしょう。
 こういう状態にある脳死患者は決して「死人」ではありません。

  • 脳死状態の人に意識はないのですか?

いいえ、意識がないことは科学的に証明されていません。脳死患者が家族の呼びかけなどに反応して涙を流す、血圧が上がるなどの反応を示すことが分かっています。
 動物実験などの結果、脳死状態の人は、外部からの話しかけや痛み刺激は感じているものの、それに対する反応ができない状態、つまり、情報のインプット(入力)はできるが、アウトプット(出力)ができない状態にある、と結論付けている脳神経学者もいます。
 アメリカで、厳格な脳死判定により「脳死」と判定された青年が、その後に脳死状態でないことが確認され、臓器摘出が急きょ中止されるという出来事がありました。その青年は脳死と判定された時点でも医師の言葉を記憶しており、「死亡宣告された時は、本当に気が動転しました」と話しています(米国NBCニュース、2008年3月 23日)。
 また、今年(2010年)2月初めの報道によると、アメリカとイギリスの医療チームが、植物状態の患者との会話≠ノ、機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)を使って成功しています。
 この実証結果は、「植物状態や脳死状態の患者に意識はない」という従来の定説を明らかにくつがえすものです。脳死状態の患者にもこの試験をすれば、同様の結果が得られる可能性があります。
 なお、脳死患者から臓器摘出する際には、麻酔や筋弛緩剤が使用されます。そうしないでメスを入れると、心拍・血圧の急上昇や体動があるからです。こういう反応は、患者が痛みを感じている可能性が高いことを示しています。


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  • 脳死状態になると、やがて死ぬと聞きましたが。

移植を推進する側からは、脳死状態になると、一週間以内に亡くなると、説明されてきました。しかし、実際には、長期にわたって生存する例が多くあります。アメリカでの実例として、4歳で脳死と診断された男児が、その後21年間生存し、大人の体にまで成長したことが報告されています。

  • 脳死判定は正確ですか?

世界には30以上もの脳死判定基準があることからもわかりますが、脳死を確実に判定することは難しく、どの国の判定方法も正確とは断言できません。同じ状態の患者さんでも、ある国の脳死判定基準では脳死と診断され、別の国の基準ではそうではない、ということが起こります。  また、医学的に見ても、脳死状態でも心臓が規則正しく鼓動し、体温が正常に保たれているのは、脳からのホルモン分泌が正常だからです。つまり、完全には脳の機能が失われていないからです。「脳死」という考え方は既に科学的に破たんしており、本来、「脳死の判定などできない」という指摘があります。

  • 脳死判定をすれば重症患者に悪影響を与えるのではないのですか?

その通りです。重症患者を生命の危険にさらすことになります。脳死状態かどうかを法的に判定する作業の中に、「無呼吸テスト」があります。これは、患者から人工呼吸器を約10分間はずし、自発呼吸があるかないかを確認するテストです。
 呼吸器をはずす前に、患者に高濃度の酸素を吸わせ、血液中の酸素濃度を一定基準にまで上げてから行われますが、その結果、脳死ではなかったとしても、病状は格段に悪くなります。また、瀕死の状態の患者を心停止にする可能性もあります。このため「脳死判定は、脳死を作るものだ」と、救急医療の専門家から厳しく批判されています。

(2) 「臓器提供」について
  • 臓器提供は「人助け」なのでは?

脳死は人の死ではなく、脳死状態の人は、きわめて重篤な患者さんではあっても、死人ではありません。ですから、脳死患者からの臓器摘出は「殺人」ということになります。人助け以前に、人の生命を断つという大きな問題があります。
 このため臓器移植法で、「脳死は人の死」と法的に規定すること、つまり「生きている人」を、「死んだことにする」ことで、脳死患者からの臓器提供を便宜的に「殺人ではないこと」にしているのです。 「脳死」とは、移植に必要な臓器を確保するために故意に作られた、不自然な死の基準なのです。 「臓器移植は人助け」と言う前に、考えてみなければいけない問題がたくさんあるのです。

  • 脳死移植は「愛の行為」なのでは?

脳死臓器移植は、移植でしか命が助からないという患者さんと、脳死状態にある患者さんの二人の間で行われます。
 しかし、一方の人を救うために、もう一方の人の命を絶つことなど、できるのでしょうか。どちらもが等しく「尊い命」で、二人の命に軽重をつけたり、優劣をつけることなどできないはずです。また、どちら側の親や家族も、重篤な患者を愛する気持ちに変わりはなく、双方の愛にも軽重や順位はつけられません。
 子供の移植の場合、臓器提供を期待することは、自分の子供さえ助かれば、他人の子の命はどうでもよいという、利己主義的な愛で、本当の「愛の行為」とはいえません。
 また、ドナーにされた子は親の判断を喜んで受け入れたでしょうか。


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  • 人間はいずれ死ぬのだから、提供してもいいのでは?

提供することは、とりもなおさず死を意味します。いずれ死ぬのだからと、いま命を断つことは、決して許されることではありません。
 また、自分はそれでよいと思う人があるかもしれません。しかし、自分の周囲や社会にどういう影響を与えていくでしょうか?
   それに、臓器は単なるモノではないはずです。それをモノのように扱い、やりとりする行為が当たり前になれば、生命を軽視する風潮や、精神的な荒廃が、ますます社会に広がることになります。

  • 家族としては、臓器だけでもだれかの体内で生きていてほしい気持ちになるのでは?

死を受け入れたくないという思いであるなら、本当の死を迎えるまで、その患者の命を縮めることはしてはならないことです。
 また、脳死からの臓器提供では、最終的に臓器摘出によって脳死患者の命を断つ事になります。遺族には、最後は自分たちの判断で命を断ったことに、後悔の気持ちは残らないでしょうか。
 実際に、臓器提供した後になって、自分たちがわが子の命を絶ったのではないかという思いが消えないで、長年苦しんでいるという人の証言もあります。脳死臓器移植がどんなものなのかよく知らないで家族の臓器提供に承諾し、後で後悔する例は少なくないのです。

  • 身内に脳死臓器移植でしか助からない人がいるので、助けたいのですが。

本当に「移植でしか助からない」のでしょうか?「移植でしか助からない」という言葉には三つの問題があります。一つは、必ず移植できる保証がないこと、もう一つは、移植すれば必ず助かる保証がないこと、さらに、移植以外の方法はなく、しなければ間もなく死を迎えるとは断 言できないことです。
 近年、これまで心臓移植が必要と考えられた人に対して心臓弁形成術、ペースメーカー医療、バチスタ手術などが開発され、臓器移植に代わる治療として多くの成功例をみています。そうした方法が適用できないか、他の医療機関や医師にも相談することも必要でしょう。
 また、脳死臓器移植には多くのリスクがあります。これまでの日本の脳死移植でも、移植後に死亡してしまい、臓器移植をしなかった方が、もっと生きられたのではないかと疑われる例も少なくありません。逆に、「心臓移植しかない」と言われて移植待機患者になっても、移植を受けずに長期間生存されている患者さんや、別の治療法で移植の必要がなくなった例も多く報告されています。
 アメリカでは移植しないと助からないと判断される病状の人が、日本では移植をしない治療によって社会復帰されている例が複数あります。


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  • 生体間移植ならいいのですか?

私たちが反対運動に取り上げているのは、人の命を断ち切ることを前提にした、脳死からの臓器移植です。医療そのものが過渡的な段階にある現在、やむを得ない場合の緊急避難的な処置として、親子間や夫婦間で行われる生体間移植に対しては反対運動をしていません。
 しかし、推奨しているわけではありません。なぜなら、生体間移植にも多くの問題やリスクがあるからです。
 ドナーの健康な体にメスを入れることは、本来は医療行為とはいえません。ドナーにとっての肉体的、心理的負担も大きいものです。
 腎臓では臓器の片方を摘出することによる、残る一つの臓器への負担増があります。肝臓では、部分的な提供といっても実際の移植で切除される量は多く、74%もの肝臓が切除されたことが原因でドナーが死亡した例もあります。また、提供後の肝臓の回復には時間がかかり、心身の不調に悩む例もあります。
 また、心情的な問題として、肉親から臓器提供を求められ、したくない気持ちがあっても、拒否しにくい状況から、悩む場合もあります。実際に、移植後に容態を悪くした夫から再度の臓器提供を迫られ、同居に耐えかねて、夫から逃れざるを得なくなった妻の例があります。
 生体間移植は、本来は愛情で結ばれているはずの家族関係をも壊すという点でも怖さがあります。

  • 心臓停止後の臓器提供による移植についてはどうですか?

基本的立場は生体間移植と同じです。しかし、心臓停止後の臓器移植にも多くの問題やリスクがあります。実際には心臓が停止してから、臓器摘出のための作業が始まるのではなく、死期が迫っていてもまだ生きている(心臓が動いている)段階から、臓器を移植に適した状態にする ために、また、摘出しやすくするために薬剤投与や臓器洗浄などの処置がとられます。
 これらは患者の救命には反する処置です。しかし、三徴候死(呼吸停止、心臓停止、瞳孔散大)を迎えてからでは、移植する臓器の質が低下するのです。このため、完全な自然死とは言えない、予定された摘出手術の中で心臓停止させられた後、臓器摘出されることが度々問題になっています。

  • それでもやはり、脳死臓器移植を必要とする人が多いのではないですか?

現在のように脳死臓器移植の普及を計り、ドナー(臓器提供者)となる「脳死患者」の増加を期待するのでなく、本来は、レシピエント(脳死臓器移植を受ける人)を減らすことの方が大切なはずです。そのためには予防医学を充実させるとともに、移植に頼らないで多くの成功例が報告されているさまざまな新しい医療の実用化を、一刻も早く総力を挙げて促進することが必要だと思います。これらのことを、私たちは国に求めています。

(3) 「ドナー登録」について


  • ドナー登録をしています。もし、仮に交通事故にあったとき、最後まで治療してもらえますか?

してもらえない可能性が高いです。なぜなら、臓器提供を前提にすると、ドナーには救命治療が尽くせないことがあります。その理由はこうです。打撲や発熱で脳が大きなダメージを受けたときは、脳が腫れて頭蓋骨の中で圧迫されることを防ぐため、体内の水分を減らす方向で救命治療が行われます。一方、臓器提供のためには、体内の水分を十分に保って摘出臓器を保護する処置がとられます。それは、危険な状態にある脳にさらにダメージを与える、逆の処置です。つまり、臓器提供を前提にすると、救命治療とは反対の処置をしなければならないのです。
 ですから、ドナーカードや健康保険証の記入欄などで、臓器提供に同意していたり、未表記のままだと大変危険です。あなたが事故や病気で「脳死状態」に陥る可能性が出てきたとき、臓器提供が優先されてしまい、十分な救命治療を受けられない可能性が高いのです。

  • ノン・ドナーカードとはどういうものですか?

人類愛善会発行のノン・ドナーカードは「脳死を人の死とは考えない。だから、臓器提供もしません」と、明確に意思表示をするためのカードです。万一あなたが「脳死状態」になったとき、はっきりと「臓器提供をしない」と意思表示していなければ、改定臓器移植法によって、家族の承諾だけで臓器が摘出されてしまいます。  ノン・ドナーカードは、改定臓器移植法に基づく「脳死判定は受けない」こと、「臓器提供もしない」ことを意思表示し、救命治療の継続を求めるためのカードです。常に携帯してください。携帯が難しい場合は、ご家族に保管場所を伝えておいてください。また、口頭でも「臓器は提供しない」ことを伝えておいてください。

(4) 霊魂観や身体観、 霊界観に関連して
  • 人類愛善会では死をどのように定義していますか?

大本教祖(人類愛善会初代総裁)である出口王仁三郎師の「肺臓、 心臓の活動が全く止む時こそ、霊と肉とがたちまち分離する時である」 (『霊界物語』第47巻・第11章)との教示に基づき、心肺停止の時が人の死であると考えています。 医学的には従来の三徴候死(呼吸停止、心臓停止、瞳孔散大)に相当します。

  • 自分の体は自分のものだから、臓器提供してもよいのでは?

私たちの体は、私たちのものではありません。王仁三郎師のお歌にも『身体も霊魂も神のものなれば仰ぎうやまへ吾とわが身を』(『大本の道』)とありますが、出口聖子四代総裁は、人の肉体は神さまから自分一代だけお借りしたものであるのに、自分の意思で他の人に臓器を提供するなどというのは、思い上がりも甚だしいと、厳しく諭されています。


  • 臓器提供した人、臓器移植を受けた人は、霊界ではどうなるのでしょうか?

霊界は意思・想念の世界です。死後、霊界では、その人の心の状態や意思・想念に相応した状態の霊身が形成され、相応の霊界(神界・幽界・中有界)に、おのずと運ばれていきます。  この原則から類推すれば、自分の体の一部を提供してもよい、自発的に失ってもよいという想念の人であれば、死後はその想念に応じて、不完全な霊身を形成することになると想像できます。   また、アメリカでの実例ですが、心臓移植を受けた女性(レシピエント)の夢に見知らぬ男性(その心臓を提供したドナー)が現れるようになり、食べ物の好みや性格なども、その男性のものに変わったという体験談があります(「記憶する心臓」、1998年、角川書店)。こうし た状態は、ドナー、レシピエントの霊魂の安定上、決して好ましい状態とは言えないでしょう。  このような霊魂の状態、霊界での状況が、ゆかりある現界人(子孫、家族など)に及ぼす影響も心配されます。

  • 詳しいことは知らず、すでに臓器移植を受けてしまった(臓器提供してしまった)のですが。

無意識のうちに、あるいは善意だと思ってされたことですが、神さまにおわびをされた上で、与えられた生に感謝し、ご自身のお体を大切にしてお過ごしください。



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